三線を作っていく手順を簡単に言うと、原木から棹を削り、チーガと呼ばれる木枠に蛇皮(人工皮の場合もある)を張ってできた胴に棹をさして組み立てるという単純なものだ。
しかし、それだけでは音は鳴らない。1mm以下の微妙な調整によって、三線は美しい音を奏でるのだ。以前は、その工程をすべて1人の職人がやっていたのだが、今は分業が普通になっているという。
それぞれの職人達の仕事をここで紹介する。
三線のよし悪しは、棹で決まるともいわれている。棹のできによって、音はまるで違ってくるのだ。今沖縄の十数軒の三線店の棹の製作を担っているという平良進さんの作る棹への信頼は非常に高い。
まず、一番大切なのは、原木の状態の見極めである。木は充分に乾燥させないと曲がってしまう。そのため、20年以上も寝かせて乾燥させることさえあるという。 乾燥した木にはひびが入る。その日々の入った個所を見極めるのも大切な仕事だ。通常、1本の角材を二つに割って、2本の棹を作る。その割り方が問題なのだ。ひびの個所を見極めて割らないと、 時に2本とも使えない状態になってしまうこともある。
2本に割った状態を粗割(あらわち)という。粗割された木を今度は棹の形に近い形に削る。あくまでも近い形であって、棹の持つ繊細さも優美さもない状態。この作業を粗削りという。粗削りの状態でまた乾燥させる。
「粗削りの状態からでも木は曲がっていくからね」
木は、その木目や筋の状態でいくらでも曲がっていくのだという。それが落ち着いたら、棹の形に削っていく。
棹作りで、最も大切な作業が”トゥーイ”と呼ばれる作業だ。三線の棹の平らな面をじっと見てみるとわかるかもしれないが、棹は中央の部分はほんの少し低くなっている。 これを”トゥーイ”と呼ぶ。”トゥーイ”が高いと音がジリジリをびびってしまう。逆に低すぎるときれいな音が出ない。非常に繊細な作業なのである。 平良さんの場合、電気カンナの刃を微妙に調節しながら、棹を削る。そしてペーパーで仕上げるのだが、この技術が卓越しているのだ。
あとは、歌口を付ける切り込みを入れ、からくいの穴をあけて完成する。
- 01:電気カンナで”トゥーイ”を削る。刃を微妙に調整しながら、一気に削る。このやり方でできる人はあまりいないという。
- 02:”トゥーイ”の確認。棹の上に金属の物差しをのせて、電気に照らして見る。ここで三線の音が決まるとあって、この時の平良さんの目は真剣そのもの。
- 03:写真ではわかりにくいかもしれないが、棹と上にのせた物差しの間から、かすかに光がこぼれている。この部分が”トゥーイ”である。
平良三線棹工作所/住所:那覇市小禄758 営業時間9時~19時
県産の三線に使われる胴(チーガ)のほぼ8割を製作しているという桃原栄仁(とうばるえいじん)さんの仕事は、まさに職人技といえる。 チーガという見えない部分だが、いっさいの手抜きなく、じっくりと作られる。県内の三線店からの厚い信頼もうなずける。
チーガは単なる木枠と思われがちだが、そこにさまざまな手が加わっている。簡単に作れるものではない。基本的にチーガは4片の木枠を組み合わせて作られる。 まず最初に木片の表面を平良に削り、継木のオス、メスを作る。そして、棹を通す穴を開け、組み合わせる。四角い枠ができ上がったら、そのねじれを直し、高さを調整、継木の隙間を埋める。 丸みを帯びたチーガの型に切ったら、割止めを入れる。この割止めは桃原さんが考案したものだ。
チーガは乾燥した木で作られているので、皮を強く張ると割れてしまうことがある。その防止のための作業だ。 チーガの外側に溝を掘り、その溝に別の木片を埋め込むのだ。これによって、皮を強く張ることを好む人にも対応できるようになった。
割止めを入れたら、グラインダーで表面を磨き、1日乾燥させてから仕上げる。
今回は基本的なチーガだが、もっと手の込んだチーガもある。音の反響をよくするために、内側を削ったチーガだ。 その削り方もさまざまあり、ただ溝を掘ったものから、立体的な形状のものまで。中でも最も手のかかっているものは、開鐘(けいじょう)と呼ばれる名器の作りをそのまま写したもの。 それは、10000円と最高の値段がつけられている。
桃原さんは、すべて手作業。1人で作っている。現在でも1日6個のペースで製作している。
ただ、大きな問題を1つ抱えている。原材料となる木材が不足してきているのだという。チーガがなければ三線は作れない。その解決策が待たれる。
- 04:割止めを入れる作業。掘った溝に接着剤を塗り、そこに小さい木片を埋め込む。この木片は、チーガ自体より固い木材で作られているので、強い補強になるのだという。
- 05:最後の仕上げ、グラインダーで表面を削る。全体に丸みをつけるだけでなく、皮がきちんと接着するように表面をなめらかにしているのだ。
- 06:チーガができ上がっていく工程。左から、丸く切り取る前の状態。この時点ではまだ簡単に外れるようになっている。 角を丸く切り取り、接着がすんだ状態。万力で締め付け、1日乾かす。グラインダーで削る作業も終わり完成した状態。このチーガがほとんどの三線に使われている。
よなは徹さんが懇意にしている宜野湾市にある上里三線店の上里忠邦さんは皮張りから組み立てまでを手がけている。 皮張り、組立は三線の音を最終的に決定してしまう作業だけに、棹やチーガの製作と同じように技術を要する作業である。
皮張りは、まず長い蛇皮を30cmにカットすることから始まる。カットした皮を水に、浸し柔らかくする。皮が充分に軟らかくなったら、今度は皮に残った肉を剥離する。 地味な作業だが、これをしないときちんと接着しなくなってしまう。次にジャッキを使って、皮にチーガの型を付ける。こ れを仮伸ばしと言い、これは濡れた状態で行う。十分に乾かしたら、チーガに接着する。接着剤が乾いて、端っを切って完成する。以上の工程からもわかるように、皮張りに湿度は大敵。 湿度の高い状態で張ってしまうと皮が切れやすくなってしまう。
- 01:3mはあろうかというニシキヘビの皮。これは、まだ小さいものだという。ニシキヘビの皮はワシントン条約により養殖のものだけが輸入を許可されているが、最近は手に入りにくくなっているという。
- 02:30cmにカットした蛇皮を水に浸す。蛇皮は一度乾燥させてる。
- 03:十分に水にひたされた皮にチーガの型をつける
- 04:ジャッキでチーガを持ち上げて、型を取る。最近はジャッキで上げる方法が主流になってきている。
最後の皇帝が組み立て。一見簡単そうに見える作業だが、実は細かい調整をしながら組み立てている。
組み立ての中でももっとも重要な作業が”部当て”。棹とチーガが接する部分がきちんと密着するように調整すること。棹、チーガをどんなに精密に作っても、きちんと密着すること はほとんどない。それを組み立てる時に調整するのだ。具体的には、チーガの穴を削り、そこに小さく割った竹を詰めて、棹とチーガの高さと角度の調整をする。 微妙な間隔の違いで、音にひずみが出てしまうので、必ずしもまっすぐになっていればいいという訳でじゃない。どんなにいい棹を使っても、どんなにいい蛇皮を使っても、 この作業次第で音のよし悪しが変ってくるのである。
他に組み立てるだけではなく、歌口の取り付けやからくいの調整など細かい作業も多い。
- 06:歌口をつける。きちんと平行になるよう、やすりで削りながら調整していく。
- 07:チーガの棹が通る穴を削って、棹の高さと角度を調整する。削った分、小さく割った竹ではめ込んでいく。組み立て作業の中で最も大事な部分。
- 08:棹をはめてみては、理想的な高さ、角度になるかを何度も確認する。
上里三味線店/棹を選んでのオーダーメイドが可能。胴の張りは、本皮、強化張り、人工皮の3種類から選べる。
住所/宜野湾市嘉数4-16-1 TEL/098-898-0483 営業時間/9時~18時